【天穂のサクナヒメ】稲を育成していたはずが育っていたのは我々ユーザーの方だった
苗を植え、稲を育てて腹肥やす———
今作「天穂のサクナヒメ」は、稲作をかなりディープなところまで体験できるシミュレーションパートと、ストーリー進行や素材集めを兼ねたアクションパートが見事に融合した異色のRPGとなっています。
大まかなストーリー
ひょんなことから天界に辿り着いた人間たちに巻き込まれ、主人公のサクナは「地上のとある島で暮らせ」と実質の追放処分を言い渡される。
天上の偉い神に認められるため、そして主人公含めた6人分の食い扶持を稼ぐため、荒れた田畑を耕し米を収穫するのであった。
・稲作パート
育苗(いくひょう)から田起こし、田植え、出穂(しゅっすい)、収穫ともはや半分くらい何を言ってるのか分からないレベルでガチ農業。
正直田んぼに苗植えて水あげてたら勝手に実って、刈り取るだけっしょ?くらいに考えてました。すべての農家さんに謝りたい。
美味い米を作ろうとすると収穫量が下がり、そこそこの米を作れば多くの収穫が望める。当たり前にトレードオフしているようですが、これがとても新鮮です。だってそんなこと考えたことないし、向き合ったこともないから。
肥料も重要です。根肥、葉肥、穂肥の養分をバランスよく、かつ時期によっては増やしたり減らしたりしながら素材を配合しなければなりません。もちろん防虫や余分な
雑草の生え具合、毒性などにも気を付けましょう。
田に水を入れる時は量と水温に気を付けましょう。
水温が低すぎると稲は病気になります。
水量が多いと多くの稲が育ちますが、その分雑草も生えやすくなります。
中間期にはちゃんと水を抜いて中干ししてあげましょう。
稲刈りは日中の晴れた日に行いましょう。
回収した稲はしっかり天日干ししましょう。
ここで手を抜くと、美味い米は作れません。
降水量の異様に高い地域なので、神に贈り物をして晴れを祈りましょう。
きっと願いはかなうはずです。
出来上がった米を見て、ニヤニヤしましょう。
そのシーズンの総括が出ますので、来期の反省として活かしましょう。
と、ここまでが稲作シミュレーションパート。
めちゃくちゃおおざっぱに書いてもこの文量。ものすごい突き詰めて作りこんであることが容易に想像できます。
ちなみに操作はわざと難しくデザインされているようです。
田植えがまっすぐ植えられないのも、手作業のリアルさを体験できます。
これは稲作という作業全般を通して言えることですが、
上手く行くときもあれば、行かない年もある。
まさに人生のようではないですか。
稲を育てていたはずが、田を介して育っていたのは我々プレイヤーの経験と心だった。
何年目かの暑い夏。照り付ける太陽を見上げて、ふと気づく瞬間があるはずです。
・アクションパート
爽快感のある素早い動きが特徴の2Dアクション。
立体起動装置的な動きができるので、リヴァイ兵長のような立ち回りが可能となっております。
ボスはしっかりボスしてて、かなり強敵。
このゲームは収穫した米の質によって主人公の能力値が上昇するという前代未聞のシステムを搭載します。ので、稲作をがんばればそれ分だけ戦闘が楽になる、というちゃんとRPGのレベル上げの楽しい部分が良質な稲穂のように詰まっています。
昼と夜で敵の強さが大幅に変わるのですが、しっかり米さえ育てていればそのうちサクッと夜の敵も倒せるようになる。これは単調な経験値稼ぎで得たレベルよりも、より感慨深い体験ができることでしょう。
大まかに稲作、アクションと大別して書きましたが、パキッと分かれているわけでもなく、いい塩梅でお互いが作用しあっています。
肥料に使う素材や日々のおかずは外から取ってこなきゃだし、いい素材は米を作らないと敵が強くて歯が立たないし。
自分の行動原理に対する理由付けがシンプルでいて明確。しっかり腑に落ちた状態で能動的に作業できるので、やらされている感がほぼゼロです。これも色んなゲームを見てきた中でトップレベルのデザインだと思いました。
・総括
フランス人が決まり文句のように言う「C'est la vie. (これもまた人生だ)」。
サッカーフランス代表VS日本代表、サンドニで5-0の大敗を喫した時にジダンが中田に試合後かけた一言であまりにも有名ですね。
人生にはいい時もあれば悪い時もあるが、それでも日はまた昇り繰り返す、という素敵な言葉を結晶化したゲームではないかと感じます。
他にもキャラの嫌みの無さや健気に生きる姿、掛け合い、個性、日々の食卓を囲むシーンなど良いところだらけな今作。
開発陣の伝えたいことが割と分かりやすい場所にあるという意味でも素晴らしい出来栄え。個人的には人生トップ10選に入るゲームであることには間違いありません。
「俺がやんなきゃ、誰が奴らに飯を食わせるんだよ!」
という熱い世話焼きにはたまらんゲームとなるでしょう。